2割特例の納付税額は売上に係る消費税額の20%で、簡易課税は業種ごとのみなし仕入率で、本則課税は実額の仕入税額を引いて決まります。同じ売上でも3つで金額は変わり、大小が入れ替わる境目はみなし仕入率80%と課税仕入率80%の2本です。適用できる期間には期限があります。
以下は、国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」とタックスアンサーNo.6509に示された率をそのまま式に置き、同じ売上高で3方式を並べたものです。率の解釈や、どれを選ぶかという判断は含めていません。個別の当てはめは所轄税務署または税理士にご確認ください。
3つの計算式を同じ形に揃える
納付税額の出し方は方式ごとに違いますが、いずれも「売上に係る消費税額(売上税額)から、仕入れに係る消費税額として認める金額を引く」という形は共通しています。違うのは、その引く金額の決め方だけです。
| 方式 | 控除する金額の決め方 | 納付税額 | 売上税額に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 本則課税 | 実際の課税仕入れ等に係る消費税額(インボイスの保存が要件) | 売上税額 − 実額の仕入税額 | 仕入の実績で変わる |
| 簡易課税 | 売上税額 × みなし仕入率(90〜40%) | 売上税額 ×(1 − みなし仕入率) | 10〜60% |
| 2割特例 | 売上税額 × 80% | 売上税額 × 20% | 20% |
| 3割特例(個人・令和9年分から) | 売上税額 × 70% | 売上税額 × 30% | 30% |
2割特例の控除額は、原文では「課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額」と書かれています。返品や値引きがなければ、売上税額の80%を引くという式に落ちます。
なお、以下の試算は税率10%の課税売上だけを前提に、国税7.8%と地方消費税2.2%を合算した10%で計算しています。実際の申告書は国税7.8%で計算し、地方消費税を22/78で乗せる二段構えなので、合計額は一致しますが端数処理の位置が違います。
売上高と仕入高を入れて3方式を並べる
売上税額は課税売上高×10%、本則課税の仕入税額は課税仕入高×10/110で計算している。100円未満は切り捨てていない。
| 方式 | 控除する消費税額 | 納付税額 |
|---|---|---|
| 本則課税 | – | – |
| 簡易課税 | – | – |
| 2割特例 | – | – |
| 3割特例(個人・令和9年分から) | – | – |
売上税額は課税売上高×10%、本則課税の仕入税額は課税仕入高×10/110で計算しています。100円未満は切り捨てていません。
入力欄が動かない環境では、次の掛け算で同じ数字が出ます。課税売上高が800万円なら売上税額は80万円で、2割特例の納付税額は80万円×20%=16万円、第3種(70%)の簡易課税なら80万円×30%=24万円、課税仕入高が330万円(税込)の本則課税なら80万円−30万円=50万円です。
簡易課税との大小は、事業区分だけで決まる
2割特例は売上税額の80%を控除するので、みなし仕入率80%の第2種事業と数式が完全に一致します。したがって簡易課税と2割特例の大小は、売上高や仕入高をいっさい見なくても、事業区分だけで決まります。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 簡易課税の納付割合 | 2割特例(20%)との差 |
|---|---|---|---|
| 第1種事業 | 90% | 10% | 簡易課税が10ポイント低い |
| 第2種事業 | 80% | 20% | 同額 |
| 第3種事業 | 70% | 30% | 2割特例が10ポイント低い |
| 第4種事業 | 60% | 40% | 2割特例が20ポイント低い |
| 第5種事業 | 50% | 50% | 2割特例が30ポイント低い |
| 第6種事業 | 40% | 60% | 2割特例が40ポイント低い |
令和9年分から個人事業者に適用される3割特例は控除が70%なので、この表の分岐点が第3種事業へ1段ずれます。第1種・第2種は簡易課税のほうが納付割合が小さく、第3種は同額、第4種以下は3割特例のほうが小さいという並びです。
自分の取引がどの区分に当たるかは、事業区分の判定フローで1件ずつ絞り込めます。区分と率の対応そのものは事業区分とみなし仕入率の対応表に整理しています。区分が複数に割れているときは、割れたまま計算しないと数字が合いません。
本則課税との分岐点は課税仕入率80%
本則課税の納付税額は「売上税額×(1 − 課税仕入率)」と書けます。ここでいう課税仕入率は、課税仕入高(税抜)を課税売上高(税抜)で割った値です。これが2割特例の20%より小さくなる条件は、式を整理すると課税仕入率が80%を超えることだけになります。
売上800万円に対して課税仕入れが640万円(税抜)を超えると本則課税の納付税額のほうが小さく、それ未満なら2割特例のほうが小さいという関係です。3割特例では同じ計算の境目が70%、簡易課税の第3種(70%)でも70%になります。
ただしこれは税抜の課税仕入れだけを分子に置いた場合の境目です。給与、租税公課、減価償却費、保険料、支払利息などは課税仕入れに入らないため、損益計算書の原価率や経費率をそのまま当てはめると境目を大きく見誤ります。制度そのものの選択要件は原則課税と簡易課税の判定基準に、そもそも申告義務があるかどうかは基準期間・特定期間の数値要件にまとめています。
2割特例を使える課税期間には期限がある
2割特例を適用できるのは、適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。個人事業者が令和5年10月1日に登録を受けた場合は令和5年分(10月から12月)の申告から令和8年分の申告までの計4回、3月決算法人が同じ日に登録を受けた場合は令和5年10月から令和6年3月の申告から令和8年期の申告までの計4回が対象範囲になります。
対象は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者に限られます。次に当たる課税期間では、期間内であっても適用できません。
- 基準期間(個人は前々年、事業年度が1年の法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超える課税期間
- 資本金1,000万円以上の新設法人に当たる課税期間
- 調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った場合など、登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる課税期間
- 届出により課税期間を1か月または3か月に短縮している課税期間
- 令和5年10月1日より前から課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となっている課税期間
適用できない課税期間の細かい場合分けは、国税庁のインボイス制度Q&Aの問115と問116に個別の図で示されています。判定の起点は登録日ではなく、その課税期間に免税事業者だったかどうかである点が読みどころです。
令和9年分からは3割特例が入る(個人事業者)
令和8年度税制改正で3割特例が創設されました。国税庁「令和8年度税制改正特集」によると、インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者について、令和9年分および令和10年分の消費税の確定申告で、課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額を控除できます。納付税額は売上税額の3割です。
適用できるのは、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと、または課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる課税期間に限られます。手続は2割特例と同じで、確定申告書にその旨を付記します。原文が対象を個人事業者と書いているため、法人はこの枠に入りません。
あわせて、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れに係る経過措置も同じ改正で2年延長され、令和8年10月から2年間は70%です。こちらは本則課税で使う割合なので、簡易課税や2割特例で計算している間は登場しません。控除率の推移は経過措置のスケジュールに整理しています。
届出のタイミングが方式の選択肢を決める
2割特例に事前の届出は要りません。確定申告書に適用を受ける旨を付記するだけで、しかも継続適用の縛りがないため、課税期間ごとに使うかどうかを決められます。簡易課税制度選択届出書を提出済みの事業者でも、申告の際に2割特例を選べます。
一方で簡易課税は、原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに選択届出書を提出しておく必要があり、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることも条件です。つまり期限が来てから振り返って選べるのは2割特例だけで、簡易課税は前の課税期間のうちに手を打っておかないと選択肢に入りません。
この差を埋めるための取扱いが1つあります。2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出すれば、その提出した課税期間から簡易課税制度の適用を受けられます。翌課税期間の初日の前日という原則から外れる形になっているため、2割特例の期間が終わる年の届出時期はここを見て決めることになります。
この試算では出せない部分
上の計算は税率10%の課税売上のみを前提にした最も単純な形です。軽減税率8%の売上が混ざる場合、輸出免税売上や非課税売上がある場合、貸倒れや返品値引がある場合、中間納付がある場合は、いずれも実際の申告額とずれます。国税7.8%で計算してから地方消費税を乗せる順序と、課税標準額の千円未満切捨て、納付税額の百円未満切捨てによっても数百円単位の差が出ます。
また、区分ごとの課税売上高が帳簿から取り出せない状態だと、そもそも簡易課税の計算に入れません。区分できていない部分には、その区分のうち最も低いみなし仕入率が原則として適用されます。会計ソフト側で税区分をどう設定するかについては、同じ運営者が運営する会計SaaS比較ナビの税区分設定の確認手順が実装寄りの内容を扱っています。
制度の原文は国税庁の2割特例 特設ページにまとまっています。数値は国税庁の公表資料に沿って計算式を組んだものであり、実際の申告額の確定を示すものではない。
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2割特例・簡易課税・本則課税の設定と申告書出力の対応を比較しています。
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