災害で国税の申告や納付が期限に間に合わない場合、期限の延長には国税庁が区域を指定する地域指定と、納税者の申請による個別指定がある。地域指定に当たれば申請は要らず自動で延びる。分かれ目は事業所の所在地ではなく納税地である。
根拠は国税通則法第十一条と国税通則法施行令第三条である。本記事は両条文と国税庁の手続案内を条文の順序どおりに並べ直したものであり、独自の解釈や税務判断は含んでいない。条文および国税庁ページの確認日は2026年8月12日である。自社の事案への当てはめは所轄税務署または税理士に確認いただきたい。
延長の根拠は通則法第十一条ひとつ
法第十一条(災害等による期限の延長)は次のとおりである。
国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二月以内に限り、当該期限を延長することができる。
条文から確定するのは3点である。第一に、対象は申告に限られない。申請・請求・届出その他の書類の提出、納付、徴収に関する期限がすべて含まれる。第二に、延長の幅は「その理由のやんだ日から二月以内」であり、災害の発生日を起点とするものではない。第三に、延長のしかたそのものは政令に委ねられている。その政令が施行令第三条である。
なお同条が対象としているのは「国税に関する法律に基づく」期限である。地方税の期限の取扱いは本条の範囲外になる。
施行令第三条は3つの指定を置いている
施行令第三条は第1項から第4項まであり、延長の入口が3つに分かれている。同じ「期限延長」でも、誰が指定するのか、申請が要るのかが異なる。
| 区分 | 根拠 | 指定する者 | 申請 | 指定される内容 |
|---|---|---|---|---|
| 地域指定 | 施行令第3条第1項 | 国税庁長官 | 不要 | 地域及び期日 |
| 対象者指定 | 施行令第3条第2項 | 国税庁長官 | 不要 | 対象者の範囲及び期日 |
| 個別指定 | 施行令第3条第3項 | 国税庁長官・国税不服審判所長・国税局長・税務署長・税関長 | 必要 | 期日 |
第3項は「前二項の規定の適用がある場合を除き」と書かれている。地域指定にも対象者指定にも入らない者が申請する受け皿が第3項である、という順序で読む。
地域指定は納税地で判定される
第1項は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により期限までに行為をすることができないと認める場合には、国税庁長官が地域及び期日を指定して当該期限を延長するものとする、と定めている。区域内に納税地があれば、対象者側の手続きは生じない。
取り違えが起きやすいのは、判定が事業所の所在地ではなく納税地で行われる点である。事業所や被災した資産が区域内にあっても、納税地が区域外であれば地域指定による自動延長には入らない。その場合に残るのが後述の個別指定である。
直近の実例が令和8年熊本地震である。国税庁は令和8年8月12日、熊本県八代市、宇土市、宇城市及び八代郡氷川町に納税地のある方(法人を含む)について、令和8年7月28日以降に到来する国税の申告・納付等の期限を、全ての税目について自動的に延長する地域指定を官報で告示した(国税庁告示第21号・熊本県八代市、宇土市、宇城市及び八代郡氷川町における国税に関する申告期限等の延長について・2026年8月13日確認)。公表文には、毎月10日が納付期限の源泉所得税等についても期限が延長される旨が例として挙げられている。
一方で、延長後の期日は告示には示されていない。告示は「その期限を別途国税庁告示で定める期日まで延長する」と定め、同日の公表文も「申告・納付等の期限をいつまで延長するかについては、今後、被災者の状況に十分配慮しつつ検討してまいります」とするにとどまる。期日を確定的に読むことはできない。
対象者指定は地域ではなく人の範囲で切る
第2項は、災害その他やむを得ない理由により期限までに行為をすべき者(第1項の適用がある者を除く)であって、特定の税目に係る国税に関する法律の規定による行為や、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第六条第一項の規定により電子情報処理組織を使用して行う申告その他の特定の行為をすることができないと認める者が多数に上ると認める場合に、国税庁長官が対象者の範囲及び期日を指定して延長するものとする、と定めている。
第1項が地域で線を引くのに対し、第2項は対象者の範囲で線を引く。条文が電子情報処理組織を使用して行う申告を名指ししている点が第1項との違いである。
個別指定は申請の時期と提出先で決まる
第3項は、第1項・第2項の適用がある場合を除き、行為をすべき者の申請により、期日を指定して期限を延長するものとする、と定める。第4項は、その申請を「法第十一条に規定する理由がやんだ後相当の期間内に、その理由を記載した書面でしなければならない」としている。
手続の具体は国税庁の案内が示している(C1-15、H1-22 災害による申告、納付等の期限延長申請・2026年8月12日確認)。
- 手続対象者 申告、納付等の期限延長の指定を受けようとする方
- 提出時期 やむを得ない理由がやんだ後相当の期間内
- 提出先 納税地を所轄する税務署長
- 提出方法 e-Taxソフトで申請書を作成・提出。書面の場合は1部を持参または送付
- 審査基準 申請者の被災状況等の実情に照らして妥当と認められるか等
- 延長できる期間 やむを得ない事由がやんだ日から2月以内
- 不服申立て 処分の通知を受けた日の翌日から起算して3月以内に、再調査の請求または審査請求
提出時期について、熊本地震の公表文は「この申請は、当初の期限を経過し、状況が落ち着いた後、申告・納付等と同時に行うことも可能です」と述べている。期限が到来する前に出しておかなければ受けられない、という形の手続ではない。
延長されない場面と、混同しやすい制度
条文と手続案内から確定する範囲で、対象外になる場面と取り違えやすい点を挙げる。
- 納税地が区域外の場合 被災した資産や事業所が区域内にあっても、納税地が区域外なら地域指定の自動延長には入らない。個別指定の申請が別に要る。
- 延長の幅には上限がある 法第十一条は「その理由のやんだ日から二月以内」と限っている。理由がやんだ後に無期限で延びるものではない。
- 期限の延長と納税の猶予は別の制度 法第十一条は期限そのものを動かす規定である。震災・風水害・落雷・火災その他これらに類する災害により財産につき相当な損失を受けた場合の納税の猶予は法第四十六条に置かれており、要件も申請期間も別に定められている(同条は災害のやんだ日から二月以内の申請に基づき、納期限から一年以内の期間を限る)。
- 個別指定には審査がある 第3項の指定は申請すれば当然に受けられるものではなく、被災状況等の実情に照らした審査を経る。
- 法定納期限の定義に第十一条は列挙されていない 法第二条第八号は法定納期限を「国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限」と定義したうえで、繰上請求に係る期限、延納、納税の猶予、徴収若しくは滞納処分に関する猶予に係る期限は当該期限に含まれないとしている。第十一条による延長はこの除外の列挙に入っていない。
対象は税目を限らない
熊本地震の地域指定は「全ての税目について」と明記されている。法人税や所得税に限られず、消費税の申告・納付の期限も対象に含まれる。なお、そもそも消費税の申告義務が生じるかどうかの判定は期限延長とは別系統の話で、消費税の納税義務の判定基準に基準期間・特定期間の数値要件を整理している。
期限延長は、個々の税目の改正とは違い、税目をまたいで一律に働く仕組みである。税目ごとの施行日や適用開始時期を横断で確認するなら、会計基準・税法改正の施行日タイムラインと主要な税制改正・会計基準の横断表に一覧を置いている。
どの指定に当たるか、個別指定の申請を出すかどうかは、被災の状況と納税地によって結論が変わる。実際の取扱いは所轄の税務署または税理士に確認いただきたい。
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