この記事でわかること

所得税の純損失・雑損失の繰越期間は原則3年である。特定非常災害により生じた損失は5年に延びるが、対象になるのは令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害に限られる。純損失は青色申告か否かと、損失の割合が10分の1以上かどうかで5年になる範囲が3段階に分かれ、雑損失には割合の要件がない。

本記事は所得税法(e-Gov法令検索)第70条・第70条の2・第71条・第71条の2の条文と、国税庁 タックスアンサー No.1110「災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」(いずれも確認日 2026年8月19日)の記載を、期間と要件の対応表に組み直したものである。解釈・推奨は含まない。個別の当てはめは所轄税務署または税理士に確認いただきたい。申告そのものの期限が延びる制度は災害で申告・納付が間に合わないときの国税の期限延長に分けて整理しており、本記事が扱うのは提出後に残った損失の使い道である。

原則3年、特定非常災害は5年

所得税法第70条第1項は、確定申告書を提出する居住者の「その年の前年以前三年内の各年」に生じた純損失の金額を、その年の総所得金額等の計算上控除すると定める。第71条第1項も雑損失について同じく「前年以前三年内の各年」と規定している。純損失と雑損失で年数は変わらない。

これに対し第70条の2(特定非常災害に係る純損失の繰越控除の特例)と第71条の2(特定非常災害に係る雑損失の繰越控除の特例)は、対象となる損失について第70条・第71条の適用を読み替え、「その年の前年以前五年内」とする。延長されるのは繰り越せる年数であり、控除の順序や控除できる所得の範囲を変えるものではない。

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損失の種類 原則 特定非常災害の特例 根拠
純損失 3年 5年 所法70条1項・2項/70条の2
雑損失 3年 5年 所法71条1項/71条の2

5年になる災害は「令和5年4月1日以後に発生したもの」に限られる

第70条の2・第71条の2は令和5年3月31日法律第3号によって設けられた規定で、同法附則第3条は「新所得税法第七十条の二及び第七十一条の二の規定は、この法律の施行の日……以後に発生する新所得税法第七十条の二第一項に規定する特定非常災害について適用する」と定めている。施行日は令和5年4月1日である。

国税庁タックスアンサー No.1110 も、雑損控除の繰越期間について「翌年以後3年間(東日本大震災又は令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害により生じた損失額については、5年間)」と記載している。東日本大震災は別の特例法によって5年とされているため、この2つが並記されている。

ここに、期間だけを見ていると外す点がある。特定非常災害として指定された災害であっても、発生が令和5年4月1日より前であれば第70条の2・第71条の2は適用されない。e-Gov法令検索に収録されている特定非常災害の指定政令は、2026年8月19日の確認時点で次の7件である。

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指定政令 公布日 所法70条の2・71条の2の適用
阪神・淡路大震災(平成8年政令第352号) 1996年12月26日 対象外(令和5年4月1日前の発生)
東日本大震災(平成23年政令第19号) 2011年3月13日 対象外。ただし別途5年とされている(No.1110)
平成28年熊本地震(平成28年政令第213号) 2016年5月2日 対象外(令和5年4月1日前の発生)
平成30年7月豪雨(平成30年政令第211号) 2018年7月14日 対象外(令和5年4月1日前の発生)
令和元年台風第19号(令和元年政令第129号) 2019年10月18日 対象外(令和5年4月1日前の発生)
令和2年7月豪雨(令和2年政令第223号) 2020年7月14日 対象外(令和5年4月1日前の発生)
令和6年能登半島地震(令和6年政令第5号) 2024年1月11日 対象

指定は災害ごとに政令で行われるため、この一覧は指定のたびに増える。e-Gov法令検索への収録には公布から時間差があるので、直近に発生した災害については収録前の状態がありうる。本記事の一覧は上記の確認日時点で収録されていたものである。

純損失は3段階に分かれる

雑損失の特例が一律であるのに対し、純損失の特例は第70条の2の第1項・第2項・第3項で対象範囲が異なる。分かれ目は2つ、青色申告書を提出しているかと、損失の割合が10分の1以上かである。

割合の要件は第1項各号にあり、第1号は「事業資産特定災害損失額」が事業所得を生ずべき事業の用に供される事業用固定資産の価額の合計額に占める割合が10分の1以上であること、第2号は「不動産等特定災害損失額」が不動産所得または山林所得を生ずべき事業の用に供される事業用固定資産の価額の合計額に占める割合が10分の1以上であることと定める。いずれかを満たせばよい。ここでいう事業用固定資産は、第4項第3号により「土地及び土地の上に存する権利以外の固定資産等」とされている。土地は分母から外れる。

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区分 要件 5年になる損失 根拠
第1項 特定非常災害発生年分について青色申告書を提出、かつ割合10分の1以上 特定非常災害発生年純損失金額(その年に生じた純損失の金額)と被災純損失金額 所法70条の2第1項
第2項 割合10分の1以上だが第1項の適用を受けない 特定非常災害発生年特定純損失金額(変動所得の損失と被災事業用資産の損失に係るもの)と被災純損失金額 所法70条の2第2項
第3項 第1項・第2項の適用を受けない 被災純損失金額のみ 所法70条の2第3項

第1項に当たる場合だけ、災害と直接の関係がない損失を含めた純損失の金額全体が5年になる。第2項・第3項では対象が災害に起因する部分に絞られる。被災純損失金額は第4項第1号により、棚卸資産特定災害損失額・固定資産特定災害損失額・山林特定災害損失額の合計額に係るものとして政令で定めるものをいう。

なお第70条第2項は、特定非常災害でない通常の災害についても、白色申告の年に生じた「被災事業用資産の損失の金額」に係る純損失を3年間繰り越せることを定めている。青色申告でなければ純損失をまったく繰り越せないわけではない。

雑損失の特例に割合の要件はない

第71条の2第1項は、特定雑損失金額を有する場合に第71条を読み替えて5年とする。青色・白色の別も、損失の割合も要件になっていない。第2項は特定雑損失金額を、居住者またはその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものが有する資産について特定非常災害により生じた損失の金額に係るものと定義する。災害に関連するやむを得ない支出で政令で定めるものを含み、保険金・損害賠償金その他これらに類するもので補塡される部分は除かれる。

純損失側の第70条の2にも同じ控除規定があり、補塡される部分は損失額から除かれる点は両者で共通している。

連続して確定申告書を提出していることが前提になる

第70条第4項は、純損失の繰越控除について「純損失の金額が生じた年分の所得税につき確定申告書を提出し、かつ、それぞれその後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する」と定める。第71条第2項も雑損失について同じ要件を置いている。特例で5年になっても、この要件は第70条・第71条の側に残るため、読み替えでは外れない。

損失が生じた年に所得がなく納付税額が出ない年であっても、申告書の提出がなければ繰越しの前提が欠ける。青色申告者が帳簿書類を保存する義務との関係で、電子取引データの保存要件は電子帳簿保存法:電子取引データの保存要件チェックリストに整理している。申告書の提出窓口の受付時間は2026年10月からの税務署 総合窓口の受付時間で変わる。

原典対応表

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本記事の節 原典 確認日
原則3年 所得税法70条1項・2項、71条1項(e-Gov法令検索) 2026年8月19日
特例5年・3段階 所得税法70条の2第1項〜第4項、71条の2(e-Gov法令検索) 2026年8月19日
令和5年4月1日以後の発生に限る 令和5年3月31日法律第3号 附則第3条(e-Gov法令検索・所得税法附則) 2026年8月19日
東日本大震災の並記 国税庁 タックスアンサー No.1110 2026年8月19日
指定政令の一覧 e-Gov法令検索 法令一覧(「特定非常災害」「指定」を含む政令) 2026年8月19日
特定非常災害の定義 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律2条1項 2026年8月19日

【記事情報】型ラベル: L2 構造化解説型/本記事は税理士等の監修を受けていません。一般的な制度の構造を公的資料に沿って整理したものであり、個別の税務相談に対する回答ではありません。/生成AIを用いて作成し、公開前に原典との対応を人が確認しています。/公開日 2026年8月19日・最終更新 2026年8月19日

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